毒親本を読んでもスッキリできなかった人も、知識と整理で心が軽くなる!
と帯に書かれているが、実際は??
毒親本を数多く読んできた私が、要約と感想を書いてみた。
結論からいえば、とても良かった!
スピリチュアルではなく、現役の精神科医が実際の診療で行うことが具体的に書かれている。
また親子問題の背後にある「親自身の問題」を、医学的・社会的視点から概観したというように、時代背景など多角的な面から考察している。
知識は治療者だけでなく、当事者にとっても必要!
著者の信念がYouTubeを超えて、書籍化された。
「なんらかの問題でメンタルクリニックや精神科を訪れたとして、最初の数回の治療で行うこと」を再現した一冊である。
私が20年以上かけて気づいたことが、すべて網羅されていた。
読むだけでは解決しないが、著書を読めば、少なくても時間を短縮できる。
親を変えることはできないが、理解し、解釈し直すことはできる。
そのうえで自分がどう選択するかは自由である。
生きづらいのは、自ら不幸にしがみついているだけかもしれない。
さあ、親理解の旅に出発だ!
『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』はこんな人におすすめ
- 毒親本を読んでスッキリできなかった人
- なぜだかわからないが生きづらい人
- 益田先生のYouTubeを見ている人
- 対人関係がうまくいなかい人
- 子育てで悩みが多い人
『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』とは
本の詳細
本の詳細 | 内容 |
タイトル | 精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法 |
著者 | 益田 裕介 |
出版社 | KADOKAWA |
発売日 | 2023/2/2 |
ページ数 | 240 |
言語 | 日本語 |
寸法 | 13 x 1.5 x 18.8 cm |
ISBN-10 | 4046061286 |
ISBN-13 | 978-4046061287 |
親を憎むのに疲れたあなたへ。
親が憎い。親のせいで人生が思ったようにならなかった。違う親のもとに生まれていれば――。
そうして、親を憎むのに疲れてしまった方へ。本書では、医師が実際に診察室でおこなっている治療の最初のステップを書籍で再現する試みをしています。
治療においては、知識が助けになります。この本では、その知識を提供します。その知識は、親子問題で悩んでいる人はもちろん、治療者を目指す学生の方にも役立つ専門的、網羅的なものです。具体的には、親子問題の背後にある「親自身の問題」を、医学的・社会的視点から概観します。
親の人物像を紐解く鍵はいくつもありますが、中でも大きなトピックとなるのは、「発達障害」です。
この概念が広く知られて以来、子供の発達障害や、自分自身の発達障害に悩む方向けの本はずいぶん多く出てきました。しかし、「親が発達障害だった場合、親子関係に何が起こるか」についてはまだまだ光が当たっていません。この本での解説を通し、「うちのことだ」という発見をされる読者が一定数いるだろうと思われます。
また、発達障害を抱える人のそばにいることで起こる「カサンドラ症候群」も重要ワードです。これらの知識は、ある意味、癒やしにもなりえます。親を責めるのでもなく、自分を責めるのでもなく、「こういう現象が起こっていた」と客観的に捉え直すことができるからです。
Amazonより
それで親子問題がスパッと解決、とはいかずとも、「親像」が変わっていくことは大きな変化です。
同時に、「自己像」も変わるでしょう。「自分が悪かった」「ダメな子だった」とひたすら思い込んでいる方にこそ、客観的知識を提供したいと思います。(本書「はじめに」より)
著者:益田 裕介
益田 裕介:早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。精神科診療についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」運営、登録者数は30万人超を超える。
『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』の要約
親子間トラウマを乗り越える鍵~主観2.0とは~
その「毒親話」で、あなたは変われたか
精神科医の立場からすると、「毒親」というテーマで繰り返し語ることは、治療的でない。
親について悩む人の多くは、親自身について無知だという。
来院者の多くは本当の問題に気づいていない
精神科で行われるカウンセリングは、偏りやズレを修正する。
偏りは自分では認識できないので、プロである精神科医に修正してもらう必要がある。
さらに、問題を抱えていない人より、問題を抱えている人の方が偏りが顕著。
本当の問題はいつも無意識のなかにある。
「変えたくない」という思いはないか
変化は痛みを伴うし、私たちは「知る痛み」に耐えることが難しい生物。
親に関しても同様で、「こうあって欲しかった」と思っても、親は他人であり、変えようとしても変わらない。
僕がYouTubeを始めた理由
精神医学は、「心の問題=脳機能の問題」。
× 「自分はなんて心が弱いんだ」
〇 脳の機能に何らかの変性(不安障害など)
精神疾患という切り口で親を見てみると
精神疾患の問題は、家庭で隠蔽され孤立を深めるケースが多い。
発達障害はグレーゾーンまで含めると7~8%。
「親は発達障害だったのかも」という気づき。
診察室で、医師がしていること
「実際には何が起こっていたのか」「出来事の背景にはこんな要因があったのではないか」
という事実を医師は診療で明らかにしようとする。
治療のサブ教材として
患者さんのモノの見方が変化して、その変化に基づいた新たな決定をできればゴール。
親子とは何か
産む、育てる機能
人間は他の哺乳類と違って、就職して独立するまで20数年以上にわたり「親子関係」を必要とする。
子供の成長に必要なもの/親が提供するもの
肝心なのは、下にある欲求が満たされて初めて、その上の欲求が発生する。
「安全の欲求」までを満たすために、親は経済的に一定の安定を保つ必要がある。
子育ての長期化とハイレベル化
現代ではモラトリアムが延長され、子育ては25歳くらいまで続く。
「親ガチャ」という概念も妥当性がある。
過去は親が育てる必要がなかった
昔
子供は地域で育てるもの
乳幼児の死亡率が高かったので、「生存」と「安全」を提供していれば親として合格点
現在
子育ての密室化
現代では、子供により良い教育を与えられるかどうか
なぜ子育ては迷うのか
子育ては迷いと判断の連続であり、「正解がないのを当然と思うこと」が求められる。
子育てに「正解がある」と思い込んでいると、知識や経済力があっても、教育はおかしな方向へ向かう。
「ある程度」のサポートを長く続けるのが親の役目
子育ては、社会人経験があれば誰でも知っているようなことを伝えられればいい。
親の「無条件の愛情」には限界がある
障害のある子供の子育ては、専門的な知識と配慮、工夫が必要。
「親と子供とどちらが悪いのか?」ではない。
「親は子供を愛して当然」という発想に、「例外はある」という認識が加わればいい。
子供から親への、愛憎の正体
悪い親のせいで、子供は苦しむ、という「結論ありき」ではなく、
どんな親の元に育ったにせよ、本人自身の意志で選択していくという「先に進む道」を探そう。
「最初の人間関係」がその後も繰り返される
家族との間にあった問題が、職場や恋人、子供との人間関係で繰り返される。
子供のころの自分や父親や母親の役回りを無意識に演じたと気づいたら、それを「意識」できただけで大きな一歩。
なぜ親子に問題が起きるのか
子供に障害があるときの問題
自己と他者のイメージが不安定なために、親が愛情をかけていても、不十分で愛されないと訴え、時には自傷に走る。
きちんと子育てをしても、障害があれば逸脱行動は出る。
依存症も親のせいではなく、依存症に出会ってしまった不運。
自分を責めるのではなく、医師の指導を受けながら回復を目指そう。
発達障害とはそもそも何か
できることとできないことの差が激しい。
グレーの人は、発達障害よりも程度はゆるやかだが、かえって周囲の理解が得づらいなどの苦労が多い。
親に障害があるときの問題①ASD受動型
ASD受動型の親は、全般的に家庭や家族への関心が薄い。
家事にも消極的、というより、「家事をすべきだ」という意識がないことも多い。
このタイプの母親を持った子供は共感を得られないことが辛い。
いつも無口で無表情、笑顔が少ない。
親の側も、子どもが何を考えているのかがわからない。
そもそも理解しようとする意志や、理解する能力が低い。
親に障害があるときの問題②ASD積極奇異型
人の話を聞かず、自分ばかり話す傾向がある。
このタイプの親はしばしば「ワンマンな暴君」になる。
暴君型の親は「成功者」であることもよくある。
発達障害の親がほかの家族に与える影響
ASDで、他者に無関心な父親がいる家では、母親が寂しさを募らせて子どもに依存することもある。
精神的なヤングケアラーである。
根底にあるのは、「自分は夫/妻である」「父親・母親である」という役割意識が乏しい。
また人間理解にも乏しいため、騙されやすい傾向があり、悪徳商法や怪しい宗教の勧誘に引っかかりやすい。
カサンドラ症候群の元・子供たち
夫との不和から寂しさを埋めるために、子どもに依存してカウンセラー代わりにするお母さんは、まさにカサンドラ状態。
カサンドラになるのはパートナーの大人だけでなく、子供もなる。
精神科などを受診して、過去の経験を語るなかで、「親が発達障害だったから」と気づけば、不安や疑問に終止符を打つことができる。
「子供カサンドラ」がなりやすい複雑性PTSD
発達障害の親が、その特性ゆえに虐待のような対応を子供にしてしまった場合、子供の診断は、「複雑性PTSD」になる。
自分たちが思う以上にトラウマの範囲は広い。
親子とも発達障害というケースも
発達障害の親から、発達障害の子供が生まれることは、定型発達の親から発達障害の子供が生まれてくるよりは頻度は高い。
ただ子供の発達障害が、親から受け継いだ先天的な特性なのか、親の行動によって後天的に発達障害的な言動になってしまうのか、判別しにくいケースもある。
「母子密着」で子供の社会化が遅れる
一番よくある組み合わせは母と娘の密着。
お父さんは「いないこと」にされて、母と娘がべったりとくっつき、恋人同士のような密着状態になる。
娘の行動を制限し、特に恋愛では、自分の価値観を強く押しつけがちになる。
結果として自立を阻むことになり、二人で年老いて孤立していく場合もある。
発達障害の親への対処法
発達障害について詳しい知識をつけることで理解が深まり、過去の理不尽な体験にも意味があったのだと思える。
- 突然の変更を避ける。
- 過去の経験から本人の「こだわりポイント」を考える。
そして本人のこだわりがあるものには触れないようにする。
「親に起こったこと」を知る意味
生まれ持った遺伝子、育った環境、経済力、親自身の家族との関係、トラウマの有無、就いた仕事など。
サイコロの出目のように「不幸の連続」によって、疾患にいたる。
親の人物像をひもときながら、今一度、記憶を客観的に整理しよう。
親はどんな人間で、どんな問題があるのかを知る
「親の理解」を阻むフィルターに気づく
自分の問題が解決しない時に、親を悪者扱いするのは問題の先送りになる。
親はどんな人?①生い立ちと背景を知る
家系図を書いて、親自身や親の兄弟、祖父母や親戚に聞いてみよう。
- 親(患者さんにとっての祖父母)の職業
- 親と祖父母や兄弟との関係
- 家は裕福or貧乏
- どんな町で育ったのか?
- その世代の常識は?
親はどんな人?②環境の影響、疾患の可能性
育った家の経済力、町の文化や属している業界の雰囲気も親の人格形成に深く関わっている。
発達障害とさまざまな二次的疾患
定型発達と発達障害の人が関わることで、定型発達の人が心を病んでしまうカサンドラ症候群。
逆に定型発達の人が発達障害の人にもたらすダメージもある。
「なぜこんなこともできないんだ」「責任感がない」
などという経験が積み重なり、社会不適応を起こし、二次的な障害として疾患が発生する。
うつ病、不安障害、双極性障害、強迫性障害など。
境界知能~知性が不足している親だった?~
精神発達遅滞(IQ70未満)ではないものの、IQ70~85の人たちを境界知能といい、7人に1人が該当する。
外見では見分けはつかず、プロでもなかなか気づかない。
社会に出てからも、頭脳労働が苦手なので何をするのにも人より時間がかかったり、後れを取りがち。
変化が苦手で、すぐに不安になる傾向がある。
うつ病①うつ状態とうつ病の違い、うつの症状を知る
ストレスが原因で陥るうつ状態を適応障害という。
うつ病は、脳の病気が原因で、周期的にうつ状態繰り返す。
うつ病②親のうつ病で子供に起きること
うつ病特有の三大妄想(心気妄想・罪業妄想・貧困妄想)を親が抱いていると子供の内面に混乱をきわめる。
「不安障害」には三つのタイプがある
パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害。
不安障害は外出できないだけでなく、家事や子育てをする気力も失われる。
その結果、子供のストレスは高まり、ヤングケアラーや将来の貧困といった問題も起こる。
統合失調症①幻覚と妄想にとりつかれる病気
幻覚のなかでは、幻聴が圧倒的に多く、幻聴の有無が診断の大きな鍵になる。
統合失調症②子供は混乱と恐怖を味わう
統合失調症は早めに治療に着手することが大切。
またそばにいる家族が、国や自治体にどのような支援システムがあるかを学ぶか否かはその後を左右する重要な分かれ目。
双極性障害(躁うつ病)群を抜く自殺率の高さ
少なくても4日以上ずっとハイな状態が続いたかと思うと、その後、うつ状態になって元気がなくなり、起き上がれなくなったまま何週間も過ごす。
強迫性障害①何度も手を洗う、施錠を確認する
「強迫観念」と「強迫行為」の二つから成り立つ。
強迫性障害②同じ行動を家族にも強要してしまう
清潔へのこだわりを押し付けて、家族が通ったあとを消毒したり、子供に何度も手を洗わせたりします。
「人間とはこういうもの」といった「普通」が通じない環境で何年も過ごすことは、子供が成長した後の対人関係にも少なからず影響がある。
さまざまなパーソナリティ障害
境界性パーソナリティー障害
対人関係が不安定で、衝動的な行動が多くなる。
子供が振り回され、心の平穏も保たれない。
自己愛性パーソナリティー障害
自分だけが好きで、人への共感性に著しく欠ける。
親子関係でも子供より自分のほうが大切になる。
反社会性パーソナリティー障害
法に反することへの抵抗が薄く、逮捕の原因になるようなことを繰り返す。
父親がこのタイプである場合、子供は服従的になる。
回避性パーソナリティー障害
自分は人に嫌われるに違いない、自分はみっともないという恐怖から、人と関わることを避けます。
親は子供つながりの人間関係(担任、子供の友人、その親など)を作れないため、連鎖的に子供の社会も狭くなる。
さまざまな依存症~二面性に翻弄される
親が何かの依存症になることで家族が一番困ることは、経済的なダメージ。
早期発見、医療の助けを借りることが不可欠。
親自身が虐待を受けてきた
虐待されて傷ついたからこそ、子供にも同じことをしてしまうことがよくある。
体罰が普通に行われていた時代もあるし、世代の違いを考えつつ、親を理解していくことが治療に必要。
チューニング/プルーニングについて知ろう
虐待を受けたという経験は過去のものであり、現在現実に起こっている問題ではない。
チューニングとは、よく使う大事な情報が強化されていくこと。
プルーニングは、要らなくなった情報が忘れられ、整理されること。
無力だった子供のころとは違い、もう自分は大人で力も知恵もついたことに着目する。
過去は変えられないが、解釈し直し、書き換えていくことは可能。
「家柄」や「土地柄」に縛られる親もいる
女の子は学問をなどを身につけるより、良妻賢母になるほうが幸せだという古い価値観を持った親はまだいる
夫婦問題、浮気、カサンドラ症候群
夫婦仲が悪いと、いつも親が不機嫌なことが子供を委縮させ、大人になってからも不安に駆られやすくなるなどの後遺症を残すことがある。
片親と貧困
心身ともに追い詰められた状況では、やはり親子の不和が起こりやすい。
「両親+子だくさんの家族」なども同様に危険。
なぜなら一人に分配できるリソースが減るから。
反骨精神で成功しても、満たされない人
外からは成功者で幸せそうに見えても、心の中は傷だらけで不満が多く、晩年にうつ病になる人もいる。
自分が「育てにくい子供」であった可能性
自分自身が親にとって「育てにくい子供」だった可能性もある。
「私のせいだったの?」という意味づけをせず、ただ親にとって「育てにくい子供だったかもしれない」という事実に目を向けよう。
親の育った世代について
「今なら許されないけど、当時はそういう時代だった」という視点を持つことが必要。
仕事・業界について
親はどんな時代にどんな思いでその職業を選び、どのような毎日を過ごしたのかを発見することができる。
老いた親を理解する①ネットと親の関係
子供が思っているより親世代のネットリテラシーは低い。
どんな未来を選択するか
「親理解」のあとに、どんな道を選ぶか
親子問題に関しても、正しい知識をインストールすることで、親に対するストレスや悩みが減るというのが著者の仮説である。
家庭を作るのかor独身でいるのか、子供はどう育てるのかor子供は産まないのか、どれを選ぶかは患者さんの自由。
深く恨み続けるエネルギーと時間があるなら、自分に使う方がいい。
自分で考えなおし、調整していく力を持つこと。最終的に自らの道を選べることが理想。
親と絶縁することはできるのか
絶縁、住民票の閲覧制限、相続放棄なども選択肢としてある。
和解は、実は一番楽な道
「親がお弁当を作ってくれなかったのは、悪意ではなく、能力の問題だったんだ」
親が発達障害だったという気づきがあるだけでホッとする
和解の道は一見難しいように思えるが、多くの人が楽になったと感じる
「親がわかってくれない」というバイアス
「親はわかってくれて当たり前」という幻想。
その根底には、親は自分より賢くて、経験値が高いに決まってるという「親は万能」という幻想がある。
親を実際より立派で成熟した人物だと思うバイアスを解除するだけで、ストレスは軽減する。
引きこもりや暴力の連鎖を止めるには
児童相談所や生活福祉課、児童精神科医に相談するなど、選択肢をフルに活用しよう
恨みが残り続ける場合
反復強迫とは、親とのこじれた関係を他の人とも繰り返してしまうこと。
これからの「今している行動」が、過去の自分や家族を理解する鍵になる。
親がすでにこの世を去っていたら
忘れていくことが、「問題ではなくなった」ということ。
より深い学びのために
精神疾患の診断をどうつけるか
医師はガイドラインに従い、ヒアリングを行うなかで疾患名が見えてくる。
安全性と楽観性を確認する
「安全性」とは、最低限の衣食住の確保と心身の健康が維持できていて、話ができる状態にある。
「自分は生きている価値がない」と100%信じていたり、「医師はみんな信用できない」と敵意に満ちていると対話が進まない。
カウンセリングを始めるのに、「最低限の楽観性」は必要。
社会性と知的レベルを確認する
時間通りに来る、終了時間になれば切り上げるなど、診療所のルールを守る最低限の社会性がないと対話は難しい。
知的レベルは、インテリジェンスあふれるまでいかなくても、本に書いてあるようなことを読み取り、自分の中で考えてみることができればいい。
またカウンセリングを行う際は、自分がいて、家族がいて、会社や地域があって、社会があるという「世の中の構図」を客観的に知る必要がある。
客観的観察のための対話を行う
精神科の診療とは、患者さんの主観から、バイアスを取り除くプロセス。
そのためには対話が不可欠になる。
「家族のなかで起こった出来事のとらえ直し」という過去のことだけでなく、「現在の自分のことを客観的に見ていく姿勢」が必要。
受け身なものより、主体的に関わっていく、自分から理解を進めていく態度が何より求めらる。
これを続けていくことで、それまで葛藤に駆られて見えなかったことが、一段高いところに立って視野が広がることが「治る」プロセス。
「抵抗」の所在をつきとめる
「確かにあの時、私は○○できる能力がなかった」「私は劣っていた」
というシビアな現実を受け止めなければならないこともある。
「知る痛み」を受け入れていく作業も、治療には必要なプロセス。
変化を促す①状況を整理する「明確化」
患者さんがうまく認識できていない部分を取り出して、分かりやすく整理する。
例)
「あれも、これもやりたいのに全然できない」
「あれをやるのに何分」「これをやるのに何分」
「24時間で足りるわけがないですよね」
変化を促す②無意識を指摘する「直面化」
医師が無意識を指摘することを直面化という。
人が無意識にしてしまうことは、「知りたくない」「見たくない」ことといえる。
だからこそ無意識の領域へ追いやる。
例)
「あなたは気づいていないかもしれないけど、お姉さんに対して嫉妬心がありますよね」
「お母さんを悪く言うのは、お姉さんのほうが愛されていた、と思って悔しいからではないですか」
患者さんは強く否定するが、無意識下の自分を認めることができれば大きな前進になる。
変化を促す③医師との関係で起こる「転移」
転移とは、記憶に残ったイメージを、無意識にほかの人物に重ねること。
医師に対しても何らかの転移を起こす。
ものすごく嫌いになったり、理想化、恋愛感情を抱く場合もある。
医師は巻き込まれずに、転移が起きていることを指摘して、さらにどうしてそうなったのかを考えていく。
転移の理由に気づいたときの激しい動揺
例)医師に恋愛転移した場合
医師「僕を好きになってどうするんですか?僕には家庭があります」
患者「家庭を壊そうなんて思っていません。私が好きでいるだけだからいいでしょう」
医師「それで納得できるのですか」
患者「好きになってはいけない人を好きになったのだから仕方ないです」
医師「ではあなたはなぜ『好きになってはいけない人』を好きになったのでしょう」
患者「…」
医師「あなたのお父さんもそうでしたね」
患者が医師に抱いた感情は、彼女の父親がよその女性に抱いた感情と同じだった。
直面した患者さんには絶叫してしまう動揺が起こる。
しかし、それでも医師は、転移が起こるくらい近しい関係を、患者さんとの間に作らなくてはいけない。
そのうえで、「患者さんに治ってほしい」という真摯な気持ちで、勇気をもって臨まなくてはいけない。
知らず知らず演じさせられる「逆転移」もある
転移は診察室のなかに限らず、一般社会でもよく起こる
「あなたをイライラさせる人」は、もしかすると怒りっぽいお父さんのもとで、おびえて育った人かもしれません。
その人は怒りっぽい親の役割を、相手(この場合あなた)に押し付けています。
転移を起こしている。
特筆すべきは、その転移を受けた側(この場合あなた)が、知らぬ間に親のような気持ちにさせられてしまっている。
これが逆転移。
無意識のうちに、役(この場合は相手の親役)を演じさせられている。
発達障害の人は共感力が低いため、逆転移を感じにくい傾向がある。
医師は患者さんのあちこちにある「詰まり」を取る
医師は俯瞰的に見て、優先度の高い詰まりに焦点を当て、ガイドしたり、相手の流れに身を委ねたりの繰り返し。
人間の尊厳とは何か
著者は最後に、人間の尊厳について言及し、締めている。
優れているから尊厳があるわけでも、人の役に立っているから尊厳があるわけでもなく、この場を生きていることに尊厳があるもの。
苦しみの中、怒りや悲しみに酔うことに疑問を持ち、この本を読んで学ぼうとするあなたの姿に、著者は人間の尊厳を見出す。
『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』の感想
最後の「人間の尊厳」への文章から、著者の熱い想いがヒシヒシと伝わってきた。
著者は早稲田メンタルクリニックの院長であり、5分ほどの診察時間内で伝えきれない知識をYouTubeで発信している。
著書もその一つであり、冒頭でも触れたように、「なんらかの問題でメンタルクリニックや精神科を訪れたとして、最初の数回の治療で行うこと」を再現した一冊だ。
知識は治療者だけでなく、当事者にとっても必要であり、親子問題の背後にある「親自身の問題」を、医学的・社会的視点から概観した。
「うちのクリニックでは、こんなことをされていない」
と思われた方も多いのではないだろうか。
実際、患者は知りえないが、医師はこのような考えで診察に臨まれているのかもしれない。
また残念ながら著者のような熱い想いがない医師なのかもしれない。
私自身の経験でいうと、著者が書いた治療の流れを専門書などを読みながら自ら行った。
病気の原因をめぐり、家族の特性を考え、親戚にもヒアリングした。
また社会的背景を過去と比較して考え、自分の無意識にもアプローチした。
原因は養育環境にあり、無意識に行っていた言動で傷を深めていったことに気づくのに20年以上かかった。
著者のクリニックにかからなくても、自分でもできる。
ただ膨大な時間はかかる。
繰り返しになるが、著書は「なんらかの問題でメンタルクリニックや精神科を訪れたとして、最初の数回の治療で行うこと」を再現した一冊であり、読めば良くなるものではない。
それぞれの置かれた家族環境や、時代背景、価値観などのバックグラウンドが異なるからだ。
ただ著書に書かれているように、親の理解を一つひとつひも解いていけば、20年はかからないだろう。
親を恨み続けるエネルギーと時間を、自分のために使う。
過去は変えられないが、解釈は変えることができる。
これがまさに、親を憎むのをやめる方法である。
親子であり、血縁関係があれば、自分も少なからず親に似た面を持つ。
親の嫌なところを職場の上司に見出す「転移」だけでなく、受け継いだ自分の嫌な面を友人に見出す「投影」ともいえる。
自分の内面を直視し、認める作業は、とても辛い。
一朝一夕にできることではないが、日々の積み重ねが必ずや明るい未来がもたらせてくれるだろう。
著書のなかに出てくる「患者さんに治ってほしい」という著者の真摯な気持ちと、人間の尊厳への熱い想いが後押ししてくれているような気がする。
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